熱情バカンス~御曹司の赤ちゃんを身ごもりました~
・蝶の楽園でハプニング
朝食のあと、「ちょっと出かけてくる」と言って部屋を出ようとする詩織の後を当然のように追いかけたら、彼女はとても迷惑そうな顔をした。
「……なんでついてくるのよ」
「なんでって、詩織と一緒に過ごすためのバカンスだ。きみが行く場所にはすべてお供するよ」
「もう、気が散るわね」
けれど詩織は決して〝帰れ〟とは言わなかった。
……邪魔をしないならついてきてもいい、ってことだな。
素直じゃない詩織を内心ほほえましく思いつつ、俺は彼女とともにヴィラを出た。
ホテルのロビーを歩きながら行き先を尋ねると、森の水辺で蝶のスケッチをするのだという。
「でも、その前にアトリエに寄らなくちゃ。スケッチブックもないし、一度着替えたいし」
「スケッチブックなら部屋に……」
そう言いかけて、俺は口をつぐんだ。振り向いた詩織が怪訝そうにするけれど、俺は曖昧に微笑んで「なんでもない」と首を横に振った。
そもそも俺がなぜスケッチブックなど持ち歩いているのか彼女にとっては疑問だろうし、俺のスケッチブックには、今朝描いた詩織の姿だけでなく、完全に自己満足で描いたいくつかの絵が収まっているのだ。それを詩織に見られたくはない。