熱情バカンス~御曹司の赤ちゃんを身ごもりました~
その時の俺は、詩織の蝶に対する熱意と行動力をあなどっていたと言わざるを得ない。
なぜなら実際にたどり着いたその〝森〟は、まさに鬱蒼としたジャングルそのものだったからだ。
「大丈夫? 梗一。こっちよ、早く来て」
詩織ときたら、まるでこの森で暮らす猿にでも育てられたのかと思ってしまうくらいに、身軽な様子で森の中を進んでいく。
それに対して俺は、木の根に躓いたりツタが腕に絡んでうまく進めなかったり、髪にクモの巣をくっつけたりと情けないことこの上ない。
南雲グループの次期社長ともあろう男が、なんてザマだ。
ビルに囲まれた無機質な世界で強く生きる術は身に着けていても、大自然の前では無力な自分が恨めしかった。
「……今行くから、あと少し待ってくれ……詩織」
「ほら、ねえ、いたわ! 大群で水を飲んでる!」
慣れない獣道に息を切らせる俺を無視して、先へ先へと歩いていた彼女が明るい声を上げた。
彼女のいる方からは水のせせらぎが聞こえていて、目的の水辺がすぐそばにあるようだ。
そこは比較的開けた土地のようで、背の高い熱帯の木々の合間を縫って差し込んだ太陽の光が、はつらつとした詩織の姿をくっきり浮かび上がらせる。