熱情バカンス~御曹司の赤ちゃんを身ごもりました~
彼女はワンピース姿から、昨日アトリエで見た時のような潔いショートパンツ姿に変わっていて、惜しげなくその脚線美を露わにしているというのに、いっさい草や木の枝で足を傷つけていない。
おそらく、普段から森を歩き慣れているのだろう。自らの芸術を表現するためとはいえ、ものすごい熱意と行動力だ。
俺はそんなふうに感心しつつ、やっとの思いで彼女に追いついた。
無言で瞳を輝かせ、ただ目の前の光景を見つめる詩織の隣に並び、俺も同じ景色を自分の目に映す。
そこには透んだ水の流れる美しい川があり、その岸辺では蝶の大群が、水を求めて身を寄せ合っていた。
黒にエメラルドグリーンの模様が入った、美しい羽。それが幾重にも重なり合って、時おり羽ばたくように揺れる。
この世のものとは思えないほど神秘的な光景で、俺はしばらく息をするのも忘れていた。
「これは……すごいな。蝶の楽園、とでもいうのか」
「こんなにたくさんいるのは初めて見たわ。もう少し近づいて描けるかしら」
詩織は蝶たちの方を見たまま、持参したショルダーバッグに手を入れスケッチブックを取り出し、そうっと彼らに近づく。
意外にすぐ近くまで行っても蝶は逃げることなく、詩織は足が濡れてしまうギリギリまで川のそばへ寄ると、真剣な瞳で鉛筆を動かし始めた。