熱情バカンス~御曹司の赤ちゃんを身ごもりました~
気品のある端正な顔立ち。自然に掻き上げたように流した、長めの黒髪。
強い眼差しと少し上がった口角には自信が満ち溢れ、彼の持つ地位や財力、今まで築いてきた成功の数々がうかがえるようだった。しかし、彼の発言の真意は全く読めない。
「口説き落とすってどういう意味? 私になにか絵を描かせたいってこと?」
そう尋ねてみると、南雲は軽くうなずいた。
「ああ、物分かりがいいな。仕事で絶対に逃したくないクライアントがSHIORIの原画を欲しがっていてね。適当に一枚頼むよ。報酬は弾む」
適当に一枚、って……。似顔絵じゃないんだから、そんな簡単に言わないでほしい。
私は呆れてため息をつき、彼にこんこんと説明する。
「あのね、私の作品は油絵なのよ? どれだけ順調に描けたとしても、納得のいく作品に仕上げるまで一か月はかかるわ」
「知ってるよ。俺は昔コーディネーターをやっていたこともあるし、こう見えて学芸員の資格だってあるんだ。だから別に納得いくものでなくていい。もっと言えば未完成でもいい。SHIORIの作品だって言うだけで、クライアントは喜ぶから」