熱情バカンス~御曹司の赤ちゃんを身ごもりました~
「……詩織」
名前を呼んで、空いている手で彼女の顎を引き上げキスをする。無理やりに唇をこじ開け、最初から深く舌を絡ませる。
「ん、ふっ……待って、ちょっ……」
「……なんだ」
一度唇を離してやり彼女の言い分を聞こうとすると、詩織はちらりと作業場の方を見て、恥じらうように言った。
「……ここでは、ダメ」
そう言いつつも、こぼれる吐息は熱く悩まし気だ。
「どうして?」
「聖域……なのよ、ここは。絵のこと以外考えたくないの」
聖域か……いかにも詩織らしい考え方だ。俺は彼女の心を乱す、不届きな侵入者ってところだろうか。
「なるほど。今ここで愛し合ったら、詩織はひとりのときも俺を思い出して、絵を描くどころではなくなってしまう、ってことか」
「そ、そうは言ってないでしょ!」
「寝室はどこだ?」
「……あっちの扉、だけど」
まさか、という目をして詩織が俺を見る。が、そのまさかだ。この部屋が聖域ということなら、別室でならいいはず。
そんな俺の思いを察したらしく、詩織が慌てて説明を加える。
「いや、確かに絵を描くのはこの部屋だけど、でもこのコテージ一軒がアトリエで、全体が聖域なわけで……」
詩織はごちゃごちゃ何か言っていたが、俺は途中で聞くのを放棄して彼女の背中とひざ裏に手を入れ、華奢な体をひょいと抱き上げた。