熱情バカンス~御曹司の赤ちゃんを身ごもりました~
南雲のあまりに身勝手な言い分に、とうとう私は頭に来た。
納得のいっていない絵を誰かに見せるなんて、しかも未完成でいいだなんて、私のプライドが許せるはずがないじゃない。
そもそも彼は、自分の仕事を円滑に進めたいがために、私の絵を利用しようとしているだけ。
大事なクライアントに対しての誠意もないし、こんな人が日本トップの広告代理店の副社長だなんて信じられないわ。
「お断りします。あなたに渡す絵は一枚もありません」
淡々と言ってキャンバスに向き直ると、南雲はクッと喉を鳴らして笑った。
何がおかしいのかと再び彼の方を向くと、いきなり大きな手に顔を包み込まれて、至近距離に南雲の顔があった。同時に、ムスク系の官能的な香りに鼻腔をくすぐられる。
島での暮らしで、自然の作り出す森や海や、雨の蒸発する匂いには慣れていたけれど、男性が纏う香水の匂いには全く免疫がなく、胸に甘い疼きが走る。
……なんで、こんな性悪男の香りひとつで。