熱情バカンス~御曹司の赤ちゃんを身ごもりました~
「その顔……絶対に俺以外に見せるなよ」
思わず湧いた独占欲から、詩織に忠告する。そしてまた詩織を胸に抱き寄せた。
俺よりずいぶん小柄な体の、やわらかなぬくもりが愛しくてたまらない。
「そんな心配いらないわよ。……自然ばかりのこんな島に移り住んで、粗末なコテージで絵ばっかり描いている変わり者の女にわざわざ会いに来るのなんて、あなただけだもの」
……いや。そうとは限らないよ、詩織。
俺はつい兄のことを思い浮かべてしまい、心の中だけで呟いた。
自分の腕の中には間違いなく詩織がいるというのに、胸に微かな不安が走る。
しかし俺の思いを知る由もない詩織は、無邪気にこう続けた。
「育ちのいい御曹司であるあなたが、まさか蝶をスケッチする作業にまでついてくるとは思わなかった。でも、不思議と居心地は悪くなくて……。川でずぶ濡れになった梗一に、なんだか胸がきゅんとした」
はにかみながら語る詩織に、不安が薄らいでいく。
彼女がこうしてありのままの気持ちを伝えてくれるのは、きっと俺を愛し、信頼してくれたからだろう。
……それにしても、今のくだりには引っかかる部分があるのだが。