熱情バカンス~御曹司の赤ちゃんを身ごもりました~
……もう、恋愛なんてしない。私は絵のことだけ考えればいいんだ。
少しだけ涙を流した後で、私はそう決意した。自然と先生との距離も離れ、卒業してしまえば会うこともなかった。
ほかの男性に……梗一に恋をした今なら、笑って会えるだろうか。
それにしても、あの〝弟〟の顔は――。
*
目を覚ますと、視界に映ったのはヴィラの真っ白な天井だった。
ぼんやりしたまま寝返りを打って手を伸ばしてみると、隣にいたはずの梗一の姿も、彼のぬくもりもない。
「梗一……?」
顔を上げてキョロキョロ辺りを見回すと、窓の外でプールが波打つのが見えた。優雅な御曹司様は、こんな朝っぱらから泳いでいるらしい。
まったく、昨夜も気絶させられそうなほど激しく私を抱いたくせに、よくそんな体力があるものだ。
呆れ半分、惚気半分のため息をひとつこぼし、私はベッドを抜け出す。
初めてアトリエで彼と結ばれたあの日、私は彼の残りのバカンスをこのヴィラで共に過ごすことを約束した。
それは彼の望みでもあったし、私も物理的にそうせざるを得なかった。
アトリエに一枚きりしかないシーツをあの日さんざん汚してしまい、現在、私の聖域である作業場に洗濯したシーツを大きく広げて干してあるため、それが邪魔で絵も描けない状況なのだ。だから私はここにいるしかない。
……なんていうのは全部建前で。
本当は私だって、彼と一緒にいたかったのだ。