熱情バカンス~御曹司の赤ちゃんを身ごもりました~
「……ごめん。そうだったな。くだらないことを聞いた」
やっと微笑みを浮かべた彼に安堵しつつも、何かが胸につかえる感じがした。
今朝見た夢と、彼の感じている不安……そこになにか共通点があるんじゃないかって、思えてならない。なぜなら、夢の中で……私、登場しなかったはずのあなたの面影を見つけた気がするの。
「ねえ、梗一。あなたって確か、お兄さんが――」
そう質問しかけた瞬間。彼の目が急に険しく細められ、どくんと心臓が揺れた。
今のは触れてはいけないタブーだったのだと、私は本能的に理解する。しかし同時に、ぼんやり抱いていたある想像が、現実であるという確信を持った。
思ってみれば、彼はいつも〝兄〟の話を嫌う。
そしてその兄は、南雲グループを継がずに好き勝手やっている人物であり、かつ梗一の嫉妬の対象となる相手。……その条件に合致する人物を、私は知っている。
……先生。
私は胸の内で、久々に彼を呼んだ。遠い昔の美術室での記憶が、脳裏をよぎる。