熱情バカンス~御曹司の赤ちゃんを身ごもりました~
「この仕事は絶対に落とせないんだ。だから、俺はきみにうんと言わせるまで島に滞在する。どうせすぐに気が変わるよ。今まで、俺に溺れない女は一人もいなかったんだ」
なんという傲慢な男だろう。それがわかっているのに、南雲の妖艶な眼差しに吸い込まれそうになっている自分が腹立たしい。
きっと、彼の堂々としたオーラや美しい容姿に騙されているだけだ。
自らの胸に言い聞かせながら彼をキッと睨みつけると、南雲は楽し気に目を細めながら言った。
「その反抗的な態度がいつかしおらしくなると思うと、ゾクゾクするよ。詩織」
「気安く名前で呼ばないで。それに、アトリエにはもう二度とこないで頂戴」
頬に添えられた手を払いのけ、ハッキリと拒否の言葉を口にしたのに、南雲は呑気に部屋を眺めてこう呟いた。
「そうだな。……こんな掘っ立て小屋じゃ、ムードも何もないし」
「失礼ね! もう、早く帰って!」
ゆったりとコテージの玄関に向かう背中をぐいぐいと押し、私は無理やり南雲を追い出した。
仕上げに塩でも撒こうかと思ったけれど、時間と労力の無駄だと思いなおし、再びキャンバスに向かうことにした。