熱情バカンス~御曹司の赤ちゃんを身ごもりました~
「でも、そのおかげで今こうして詩織に優しく看病してもらえて、幸せだよ」
梗一はしみじみ噛みしめると、握り合った手を自分の方に引き寄せて、私の手の甲にチュッとキスをした。いつもよりずっと軽い愛情表現なのに、胸がときめいた。
「……ますますばかね」
照れ隠しにそう言って、私は彼の額のタオルを取った。十分ほど前に濡らし直したばかりなのに、すでに彼の体温であたたかい。
「また冷やしてくるわね」
立ち上がった私を、梗一が「詩織」と呼び止めた。けれど振り向いた私に向かって、彼はゆっくり首を横に振るだけ。
「……いや、なんでもない。呼んだだけだ」
「そう? 欲しいものがあるなら言ってね。手料理は無理だけど、買ってくることならできるから」
こんなとき、普通の女性ならお粥や雑炊を作ってあげられるんだろう。絵を描くしか能がない自分が少し恨めしい。
「ありがとう。でも、今夜は詩織も休んで。きみを夜ひとりで出歩かせるわけにはいかない」
でも、梗一はそんな私をごく自然に女性扱いしてくれる。そのことがこんなにうれしいなんて、私はすっかり恋愛モードになってしまったようだ。