熱情バカンス~御曹司の赤ちゃんを身ごもりました~
翌朝。私がベッドの中で心地よくまどろんでいたら、梗一の怒鳴り声で夢の世界から引っ張り出された。
「……そんなばかな! なぜ俺のいない間にそんな話が進んでいるんだ!」
あまりの剣幕に私は思わず上半身をガバッと起こし、声のした方を振り返る。
彼は窓際に立ちスマホを耳に当てていて、いつもなら美しい横顔を怒りに歪ませていた。
いったい、誰と電話しているのだろう。私には関係のない話だろうけれど、初めて見る梗一の怖い顔に、ハラハラしてしまう。
「俺だって帰国したいのは山々だが、まだ……」
そう言いながら、梗一がふいにこちらを振り向いた。目が合うなり私はびくっとしてしまい、そんな私を安心させるように、彼は軽く微笑んだ。
「とりあえず、また連絡する。そっちに動きがあったらまた教えてくれ。……じゃ」
通話を終えた梗一は、手近なテーブルにスマホを置いてベッドに歩み寄る。
「ごめん、起こしてしまったようだな」
「ううん、それは別にいいけど……。具合、もういいのね」
本当は電話の内容がとても気になってはいたけれど、怖くて触れられなかった。
だって、〝帰国したいのは山々〟だなんて……そんな話を掘り下げて訪れる結末が、ハッピーエンドだとは到底思えない。