熱情バカンス~御曹司の赤ちゃんを身ごもりました~
最初から……。梗一は、そんなに強い想いでを私に……?
そのとき、女性スタッフがちょうどいくつかの指輪を選び終えて戻ってきた。ベルベットのトレイに載せられたのは、まばゆい輝きを放つダイヤの指輪ばかり。
思わず手に取ってみたくなるけれど、気軽に手を伸ばしていいものでないことくらい、私にもわかる。……これは、大切な決断だ。
指輪を見つめて思い悩んでいると、梗一がぐいと私の左手をつかみ、反対の手でひとつの指輪を取る。そして――。
「悪いけど、迷わせてやれる時間がないんだ。すぐに日本に帰って、俺と結婚してほしい」
私の薬指に指輪を嵌める寸前、梗一が宣言した。
私は一瞬流されそうになったけれど、即座に我に返ると掴まれていた手を思わず引っ込めた。
その瞬間、梗一の瞳に落胆の色が宿り、彼を傷つけてしまったのが分かった。
でも……。
「すぐに日本に帰るなんて……無理よ」
それは、私にとって譲れない、正直な思いだった。
アトリエにはまだ描きかけの蝶がいる。スケッチだけが済んでいて、これからじっくり描きたい蝶も。まだ出会っていない美しい蝶も、たくさん――。