熱情バカンス~御曹司の赤ちゃんを身ごもりました~
第四章
・食い違う事実
「梗一、どうしてなにも食べないの? とても美味しいわよ、このポワレ」
「……いや、遠慮する。優良(ゆら)を呼び出したのは、食事を楽しむためじゃないんだ。この頃、きみのお父さんから俺と結婚するように言われているだろう? その話を断って、一緒に父たちを説得してほしい」
帰国した当日の夜。
都内のフレンチレストランで、俺はテーブルをはさんで向かい合う女性に、そう頼み込んだ。
彼女は、詩織に話した許嫁の女性、天海(てんかい)優良。
同い年の彼女は、巻き髪のロングヘアがよく似合う美人で、すらりとしたスタイルを生かし、モデルとして働いている。そして、有名な国産自動車メーカー『天海』社長の娘でもある。
彼女の父と俺の父は幼馴染みで、互いに異性の子どもが生まれたら結婚させようなどと勝手な約束をし、変わり者の兄をよそに、俺と優良は幼い頃から許嫁の関係にさせられた。
しかし、それは単なる口約束で、本当に結婚するかどうかは、お互い大人になってから真剣に考えればいいという軽いスタンスだった。
そして優良も俺も父親たちの自己満足に付き合う気はなく、お互い自由に恋愛し、結婚したい相手ができたその時には、遠慮せず父たちに話をしようと決めていた。
そして今、ちょうどその時期がやってきたのだ。