熱情バカンス~御曹司の赤ちゃんを身ごもりました~
優良とレストランの前で別れ、したたかに酔った状態で自宅マンションに戻った俺は、酔った勢いのまま兄に電話をした。リビングのソファに腰かけ、スマホを耳に当てる。
『はい』
たった一コールで電話に出た兄。その声は、いつものように飄々としていて俺を苛立たせる。
「兄さん……優良に変なことを吹き込んだだろう。どうして俺の邪魔をする」
『どうしてって……簡単なことだ。俺も詩織がお気に入りなんだよ。とはいえ、先に彼女に会う権利は譲ってやっただろう、どうだった?』
わざとらしすぎる優しげな声に、耳に当てたスマホを投げ捨てたくなる。
「……どうせ知っているんだろ。今、俺ひとりで東京にいる、それが答えだ。ただ、俺はまだ諦めてはいない。ライバルが兄さんであっても、彼女を譲るつもりはない」
『へえ。カッコいい~』
耳元で忌々しいからかい声が響き、俺は思わず声を荒らげた。
「ふざけるな! ……とにかく、一度会ってくれ。詩織のことはともかく、仕事に関してどういうつもりなのか話がしたい」
『うん。了解……もう切るよ、今、いいところだから』
兄がそう言った瞬間、電話の向こうで、喘ぐようなか細い女の声が聞こえた。