ママと秘密の赤ちゃんは、冷徹皇帝に溺愛されています
「顔をお上げになって。今日はお忍びで来たので畏まらなくて結構よ」

「……はい」

私は恐る恐る顔を上げた。

オリーヴィア様は値踏みするように私を見つめていた。

一体何の用なのだろう。公爵家のような身分の高い貴族の知り合いはお父様にもいないはず。

「中に入っていいかしら?」

「はい」

私が慌てて横にずれ道を空けると、ふたりは部屋に入って来た。

護衛の男性は部屋をぐるりと見回すと、食事をする為の大きなテーブルの椅子をオリーヴィア様の為に引いた。オリーヴィア様は当然と言うように優雅な動作で腰掛け、私にも対面の席に座るように言う。

困惑しながらも従うと、オリーヴィア様はすっと目を細めて話を切り出した。

「随分と驚いているようですわね、私のことを知らなかったのかしら?」

「は、はい」

正直に答えると姫君は機嫌を損ねたようだった。

ほんの少しだけ顔色が曇る。

「そう。では教えて差し上げるわ。私はレオン様の皇妃に選ばれた者です」

「えっ?」

まだ言葉の途中だったと言うのに、私は高い声を上げてしまった。

でも取り繕うことなんて出来ない程、ドキドキと胸が脈打っている。

では……オリーヴィア様がソフィア様の手紙に書いて有った、公爵家の姫、その人だと言うの?
こんなに綺麗な人だったなんて……いえ、身分だけじゃない、容姿だって私は姫君の足元に及ばない。

想像でしか知らなかった公爵家の姫が、現実となって現れたことに私は激しく動揺した。
でも、レオンは姫との婚約は誤解だと言っていたはず……いったい何が起こっているの?

< 100 / 141 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop