ママと秘密の赤ちゃんは、冷徹皇帝に溺愛されています
何も言えない私に、オリーヴィア様は話を続ける。

「少しはご存知だったのかしら? では話は早いわ。今日こうして訪ねて来たのはあなたにお願いがあるからです」

「お願い……ですか?」

「ええ、レオン様の前から消えて頂きたいの」

遠慮なく告げられた言葉に、私は大きく目を見開いた。

「そ、それはどういう……」

「言葉の通りよ。レオン様はあなたを側室として迎えるつもりのようですが、私は皇妃としてあなたの存在を認めません」

「側室?……そんなこと……」

レオンはひとことも言っていなかった。ただ一緒に生きて行こうと、私も側室になるなんて気持ちは無かった。

「なぜ驚いているのかしら? まさか皇妃になれると思っていた訳ではないでしょう? 男爵家の娘でしかないその身で」

オリーヴィア様の言う通りだ。私の身分では皇帝の妃にはなれない。それでもレオンの言葉を信じてしまったのだ。

この先もずっと一緒だと言われたとき、私達の間に他の女性が存在するなんて考えなかった。

だってレオンは、公爵家の姫との婚約の話を、はっきりと否定したから。私は彼の言葉を疑わなかったのだ。

「レオン様は家臣の反対を押し切ってあなたを迎えようとしています。私の父上の反感も買っています」

「それほど皆さんが反対しているのですか?」

「当然よ。このままではレオン様のお立場も危うくなるわ。私は皇妃として皇帝陛下が過った道に向かうのを諫め正さなくてはなりません。あなたとしてもこれ以上レオン様の立場を悪くしたくないでしょう? 潔く身を退きなさい」

オリーヴィア様の冷ややかな言葉に私は息を呑んだ。これはお願いではなく命令なんだ。

けれど、簡単にはいなんて言えるわけがない。

「おっしゃることは分りました。でもどうするにしても一度レオンと話し合ってから……」

「黙りなさい!」

オリーヴィア様が厳しい声で私の言葉を遮った。

「皇帝陛下を呼び捨てにするなど無礼にも程があるわ。身の程を弁えなさい」

「も、申し訳ありません……」

高い身分の人々がもつ威圧感のようなものに、私は恐れを感じた。

上手く言葉が出せなくなる。だけどどうしても命令に従えない。

だって私だけの問題ではないのだ。リラのことを思うと簡単には引き下がれない。

オリーヴィア様はリラの存在をご存知ないから、ただ私に身を退けと言うけど、でも……。

思い悩んでいると、オリーヴィア様は煩わしそうに溜息を吐いた。

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