ママと秘密の赤ちゃんは、冷徹皇帝に溺愛されています
それから数日は常に不安で、何度も後ろを振り向いたり、辺りをキョロキョロと見回したりと落ち着かない時を過ごした。

オリーヴィア様は今どうしているのだろう。

毒なんて方法じゃなくあの従えていた護衛が何かして来たら私に防ぐ術はない。

不安で夜もろくに眠れない。

町に散歩に行きたいと訴えるリラにも頷けなかった。

そんな私を訝しく思っていたのか、カイルが珍しく自分から声をかけて来た。

「何を気にしているのですか?」

「……いえ」

一瞬、オリーヴィア様の件を相談しようかとも考えた。

だけど、私はカイルを信用できない。

レオンはカイルを頼るように言っていたけれど、彼はもともとレオンに敵対した第七皇子の部下だった人で、第七皇子が失脚するとレオンを主に変えている。

これからだって状況によっては使える主を変えるかもしれない。

「何でもないようには見えませんけどね。昨日から後ろを振り返ってばかりだし、まるで何かに怯えているようだ。何を恐れているのですか?」

「そんなことありません……レオンはそろそろ戻るのですよね?」

「はい。しかし少し予定より遅れているようですね」

「遅れる理由は聞いていますか?」

「いいえ」

私はがっかりとして息を吐いた。

レオンに打ちあけるべきか答えが出ないのに、早く彼に会いたいと思っている。

「どうしましたか? レオン様に急ぎの用でも出来ましたか?」

カイルは相変わらず探るような視線を送って来る。

「何でもありません。そろそろリラの治療が終わる頃なので迎えに行ってきますね」

カイルの視線から逃れるように、治療室に繋がる渡り廊下に向かう。

足早に進む私の後ろを、今日にかぎってカイルも付いて来ていた。そう言えば、最近カイルはやたらと私の近くにいる気がする。

「失礼します」

治療室に入ると、いつもとは違う慌ただしい雰囲気に気が付いた。

近くに居たミゲル先生の助手の女性に声をかける。

「あの、なにかあったのです?」

「あっ、イリスさん! 今知らせに行こうと思っていたんです。リラちゃんが消えてしまっって」

「……!」

私は大きく目を見開いた。

リラが消えた……そんな、どうして? ……まさかオリーヴィア様が?

茫然としている私を押しのけるようにして、カイルが前に出た。

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