ママと秘密の赤ちゃんは、冷徹皇帝に溺愛されています
朝食の後片付けをしていると、玄関を叩く音と同時に呼びかける声が聞こえて来た。

「リース、いるんだろ?」

聞きなれた声。仕事先である洋裁店の店主、セルジュ・ドニエだと気付き私は食器洗いで濡れた手を拭きながら玄関に向かった。

「おはようございます、セルジュ。何か有ったのですか?」

今日は週に一度の洋裁店の休みの日だ。

「早くからごめん、急ぎの用が有って」

セルジュは私より五歳年上の二十六歳で両親の後を継いで洋裁店を切り盛りしている。

柔らかそうな栗色の髪に、目じりの下がった同色の瞳。第一印象は穏やかで優しそうな人だった。

その印象通り彼はとても温厚で落ち着いていて、思いやりがある。

リラを育てながら働く私の事情を理解し、何かと融通を利かせてくれる理想的な雇い主だ。

「大丈夫です。何か有ったんですか?」

「リースに頼みがあるんだけど、リラの具合はどう?」

「大分落ち着いて来ているけど、原因が分からないから心配で……」

私はセルジュから部屋の中に視線を移した。居間ではリラが絵本を読んでいるはずだ。

産まれてから大きな病気に罹ることもなく健康に育って来たリラの様子が、二月前からおかしくなっていた。

急に熱が出てぐったりとなったり、赤い湿疹が顔に出来たり。

普段は元気だし食欲も旺盛なのに、あるとき突然症状が現われる。

町で唯一の医師であるターナー先生に診て貰っているけれど、原因不明で今は様子を見守るしかないとのこと。

その為、仕事を家でやらせてもらっていた。

ちょうど領主家からの注文が入るようになった忙しい時期だったが、事情を打ち明けるとセルジュは嫌な顔をせずに許可してくれた。彼には本当に感謝している。

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