ママと秘密の赤ちゃんは、冷徹皇帝に溺愛されています
「お待たせして申し訳ありません。彼女がショールの制作者リース・メルノです」

「リース・メルノ?」

セルジュの言葉を聞いたレオンの目に、怪訝な色が浮かぶ。

私の新しい名前については、把握していなかった様子だ。

居たたまれなさがこみ上げてきた。

名前を変えていることを、この場で指摘されたらどうしよう。

レオンは私に対してきっと怒っているはずだ。

必ず迎えに行くから待っていろと言われたのに、私は彼を待たずに、置手紙ひとつ残しただけでルメールの屋敷を出たのだから。

私の行動は彼の立場から見ると酷い裏切りだ。

レオンは私がリラを身ごもったことを知らないから、他国で名前を変えて生活している私の行動は理解不能だろう。

緊張感の漂う苦しいときのあと、静寂を破るようにレオンが発言した。

「カイル、ドニエさんから店舗の説明を受けておいてくれ」

カイル? 聞きなれない名前だ。レオンの視線を追って振り向くとそこには騎士服姿の金髪の男性が佇んでいた。

私は思わず悲鳴を上げそうになるのを必死にこらえた。

カイルと呼ばれた男性は、四年前第七皇子の配下としてルメール村にやって来た兵士だったからだ。

あの時のことは今でも忘れられない。

強い目で私達を見据え不安に陥れ、帝国兵に森に火をつけるよう命じた人だ。
でもなぜ彼がここにいるの? レオンとの関係は?

次々に疑問が浮かんでいく。そんな中セルジュはカイルと彼が連れていた男女二人を連れて、店舗奥の作業所へ移動した為、私はレオンと二人きりになってしまった。

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