ママと秘密の赤ちゃんは、冷徹皇帝に溺愛されています
部屋には怖い程の沈黙が訪れていた。

漂う空気は気まずく、自分の鼓動の音だけがやけに大きく耳に響く。

どうしよう……どうすればいいの?

こんな風にレオンと再会するとは思ってもいなかった。もう二度と会えないだろうと覚悟をしていた……だって彼は本当に特別な存在になったのだから。



一年前、レオンはラヴァンディエ帝国の新皇帝に即位した。

若く見目麗しい皇帝の誕生の知らせは、隣国の小さな町で暮らす私の元にも届いて来た。

そのときの気持ちは本当に複雑だった。

レオンが過酷な継承争いを勝ち抜いたことは嬉しかったし、これからは敵に怯えることなく無事に過ごせるのだと思うとほっとした。しかし同時に彼との立場の違いを改めて実感する結果になった。

皇帝になった彼はもう本当に手の届かない人。平民として暮らす私は近寄ることさえ許されないだろう。

自分で選んだ道だけれど悲しくて、リラが眠った後こっそり泣く日が長く続いた。

新皇帝の噂は嫌でも耳に入り、その度に動揺せずにはいられなかった。

それでも日々の生活は忙しく止まらずに時は流れて苦しみも段々と薄れていった。最近は噂を聞いても冷静でいられるようになっている。

今でも胸は痛むけれど、レオンと過ごした日々は過去の大切な思い出として私は私の暮らしをしようと気持ちを切り替えられるようになった。

生家を出たとき、リラを産んだとき、彼の皇帝即位とその後の様子を聞いたとき。

何度も彼への想いを封じるように自分の心に言い聞かせてその通り実行して来た、それなのに……。

たった一目姿を見ただけで瞬く間に私の心はレオンへの想いでいっぱいになってしまった。

冷静さを装うことも出来ない程に。

ぎゅっと目を閉じたとき、レオンの掠れた声が耳に届いた。
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