ママと秘密の赤ちゃんは、冷徹皇帝に溺愛されています
「イリス、やっと見つけた」

私が何か言う間も無く強い力で身体を引き寄せられた。

「あっ……」

いつの間にこんなに距離が近づいていたのだろう。そんな考えも抱き締められると思考に霧がかかったように曖昧になった。

レオンの鼓動が伝わって来る。懐かしい彼の匂いを感じ頭が真っ白になって言葉が出て来ない。

ようやく我に返ったのはレオンが抱擁を解き、私を見つめながら発した言葉を聞いたときだった。

「イリス。話したいことが山ほどある」

「あ、あの……私……」

レオンの眼差しはとても強い。そこに怒りだけではない想いを感じて、私は思わず目を逸らしてしまった。

どうして今でもそんな目で私を見るの? まるで初めて抱き合ったときのような熱を感じる。

今の彼は昔とは違うのに。

レオンは皇帝即位と同時に公爵令嬢と婚約したと噂で聞いた。彼にはもう共に生きる人がいる。私とのことはもう過去の出来事のはずなのだ。

「イリス、君が館を出たと知ってからずっと探していた。母が出した手紙のこともルメール男爵から聞いた。傷つけて本当に悪かった」

彼の言葉に驚き私は目を見開いた。

皇帝である彼が、一市民でしかない私に頭を下げるなんてあってはならない。

「あ、謝らないでください。ソフィア様の申し出は仕方のないことだって分かっていますから」

近すぎる距離を開けようと一歩後ずさると、レオンは整った顔を曇らせた。

「だがイリスは俺を許していない。他人行儀な話し方をするのはそのせいだ」

「話し方は昔と同じようにはいかないからです。今のレオン様と私では立場が違い過ぎますから」

本当は出会った頃から身分違いだった。けれどあの頃の私はレオンの皇子という立場を本当の意味では理解していなかった。

だから好きという気持ちだけで彼を受け入れた。

世間知らずの私は、いずれ彼と結婚出来るのだと信じて疑いもしなかったのだ。

今はもうそんな考えは持てない。

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