ママと秘密の赤ちゃんは、冷徹皇帝に溺愛されています
「俺と距離を置こうとしているように聞こえる。なぜだ?」

「ですから、それは立場が……」

「関係ない。いい加減他人行儀な口調は止めてくれ。以前のようにレオンと呼ぶんだ」

「そんな……無理です」

戸惑う私の腕をレオンが強引につかんだ。

「無理じゃない。これからは一緒に暮らすのだからそんな態度では窮屈だ」

私はびくりと肩を震わせた。

「え? ……一緒に暮らす?」

「言葉の通りだ。イリスは俺と共にラヴァンディエに戻るんだ」

私は大きく目を見開く。

「あの、先ほども言いましたけど私はこの町で上手く生活出来ているんです。仕事もあるし、友達も出来ました。この先もここで暮らして行きたいと思っています」

地方の小さな町だけれど平和で人々は優しい。リラもここを気に入っている。

「レオン様は私を心配してくれているのかもしれないけれど、本当に大丈夫です。だから……」

「イリスは俺が責任感や同情で迎えに来たと思っているのか?」

私の言葉を遮り、レオンが硬い声を出した。

「……はい」

「違う。俺が迎えに来たのはイリスを愛しているからだ。離れている間だってひと時も忘れたことなど無かった。この先の人生をイリスと歩みたいんだ」

そう口にするレオンの瞳は真摯で、私の心を揺さぶった。

子供の頃からずっと彼だけを慕って来たのだ。そんな相手に必要とされて嬉しくないはずがない。

けれど、今の私は昔のように心のままレオンの胸に飛びこめない。

私達の間には、大きな溝が出来てしまった。

立場、環境、感情。全てがあの頃と違うのだ。

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