ママと秘密の赤ちゃんは、冷徹皇帝に溺愛されています
「それなら、なぜここから離れるのを拒むんだ?」

私はまたもや口ごもりそうになりながら、なんとか言葉を絞り出した。

「それは……この町は人も気候も穏やかで住みやすいからです。仕事も有って自活出来ているし、四年近く住んでいてもうすっかり慣れて今更他の所に行きたくありません」

それは一番の理由ではないけれど、本当のことでもあった。

私もリラもこの町が好きで、幸せに暮らしている。

だからどうか、これ以上追い詰めないで。

そんな願いもむなしく、レオンは失望したように目を伏せた。

「納得できない」

「でも……本当なんです」

「イリスにとって二人で生きていこうと交わした約束は、そんなに軽いものだったのか?俺との絆は住みやすい気候と比べて切り捨てられるようなものだったのか?」

「ち、違う!」

私は周りの目も忘れて叫んでいた。

レオンとの誓いは私にとって、心からの誓いだった。

軽い気持ちなどでは決してない。

その想いだけは疑われたくなかった。だけど、どうすれば信じて貰えるの?

リラの存在を話し、嘘偽りない私の気持ちを伝えれば納得してくれるかもしれない。

けれど、もしレオンが自分の血を引くリラを皇女として皇家に迎えると言い出したら?

皇帝である彼が本気になったら、私の抵抗など通じない。

レオンが私に冷酷なことをするとは思えないけれど、四年もの間離れていて、彼の立場は激変している。絶対に無いと自信が持てない。

リラを連れ去られてしまったら……。

考えると身体が冷たくなった。

リラと離れ離れになるなんて耐えられない……やっぱり本当のことは言えない。

私には説得力がない言葉を伝えるしか術がなかった。

< 46 / 141 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop