ママと秘密の赤ちゃんは、冷徹皇帝に溺愛されています
「私もリラも幸せに暮らしています。ここは穏やかで安全で愛情に溢れている。確かに生活が苦しいときはあるけど、私だってもっと沢山働くようにしようと考えていて……」

早口でまくし立てる私に、レオンは呆れたのか小さな溜息を吐いた。

「働くってあの洋裁店でか? イリスがいくら必死に働いたところで、たかが知れているだろう?」

「そんな言い方しないで! 立派な仕事じゃない」

馬鹿にされたように感じて思わず声を荒げてしまったが、皇帝に対してあまりに無礼な物言いだった。

直ぐに後悔して青ざめる私に対し、レオンは怒った様子はなくむしろ先ほどまでより態度を和らげた穏やかな声を出した。

「誤解しているようだが裁縫の仕事を馬鹿にしている訳じゃない。だが、今のままではリラにしっかりとした教育を受けさせられないだろう。学問にマナー教育。イリスが当たり前に身に付けている知識をリラが持てなくてもいいのか?」

私は何も言えなくなり唇を噛み締めた。

田舎の男爵家での暮らしは、自分が特権階級の人間である自覚を持てる程豊な生活ではなかった。

だけど実際私は恵まれていたのだ。

何不自由なく、両親に守られ、十分なものを与えらえていた。

私に両親と同じことは出来ない。

「レオン様のおっしゃることが正しいと分かります。でも私にはこれが精一杯なんです」

項垂れる私に、レオンは更に口調を和らげた。

「責めている訳じゃない。俺が言いたいのは今後のことだけだ」

「今後?」

「三人でラヴァンディエに帰ろう。城に戻ったらリラを皇女の身分にする」

レオンが私のすっかり荒れてしまった手をそっと掴む。

「これからは俺がイリスとリラを守っていくから。なにも心配しなくていい」

彼の言葉に力を感じた。実際それだけの力と自信があるのだろう。

大好きな人にこんな風に言われたら心が揺れる。

嬉しくて、頼りある腕に守って欲しい気持ちが生まれてしまう。

だけど……。

私は彼の手から自分の手をそっと引いた。
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