ママと秘密の赤ちゃんは、冷徹皇帝に溺愛されています
「レオン?」

たちまち胸が騒めき、私は上ずった声を上げた。

「まだ気持ちは変わらないのか?」

「え?」

「俺のもとに戻って来て欲しい。イリスとリラは何が有っても守ると誓う。どうか信用して欲しい」

ぎゅっと私を抱く腕に力が籠る。

大好きな人に懇願するように囁かれて冷静でいられるはずもない。

決心が揺らいでしまいそうになるのを必死に押しとどめ、私はレオンの身体を押し返した。

「ごめんなさい」

私の答えを聞いたレオンの体が強張った。

抱きよせる腕には更に力が籠る。

「……俺はふたりを諦めるなんて出来ない。側に居て欲しいし、自分の手で守りたいと思う」

「でも……」

レオンは私の反論を封じるように早口で言う。

「初めて会った時のことを覚えているか?」

「え、ええ、よく覚えてる」

忘れるわけがない。レオンは平凡な毎日を送っていた私の前に突然現れ、あっという間に私にとって大切な人になったのだから。

「俺もよく覚えているよ」

レオンは過去の記憶を思い出しているのか、目を細めた。

「初対面だと言うのにイリスは俺に躊躇いなく近づいて来た」

「それは……あの頃は世間知らずだったから。レオンの身分についても皇子とは聞いていたけれどちゃんと理解はしていなかったの。ただレオンが来たことが嬉しくて」

見たこともない綺麗な男の子と友達になりたくて、何も考えずに近づいた。

「俺はあのとき、どん底の気持ちだったよ」

「え?」

それは今まで聞いた事のない話だった。

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