月の記憶、風と大地
発覚
春だというのに、寒波が日本中を覆いつくした寒い日である。
厚手のコートに身を包んだ野上原 弥生(のがみはら やよい)は夜の公園のブランコに座り、スマホ画面を見つめていた。
求人広告である。
彼女は四十三歳の専業主婦であり、現在は社会的活動はしていない。
職歴はあるが二十年前のことだ。
当時二十代だった彼女は事務職に就いていたが、パソコン自体が進化しているし、今さらそんな職歴が何になるのか。
弥生はため息をついた。
息が白い。
桜が満開の関東では四月とは思えない寒さだ。
花冷えという言葉はあるが、度が行き過ぎではないかと思う。
背中まである長い髪を顔の横でひとつに束ねている。
卵形の輪郭に整った目鼻立ち。
細身の体型。年齢による肌のたるみ、小じわは多少見られるものの、年齢相応の美しい女性だった。
弥生は結婚して十七年目になる。
二十六歳の時だ。
三十歳で子供を初めて身籠ったが胎児は発育不良で死亡、子宮内で胎盤癒着を起こし摘出手術を行い、以降子供は望めない体になった。
結婚を機に仕事を辞め子供のこともあり専業主婦でいたが、このままで良いのか考えるようになり働くことを考え始めた。
夫の両親は云わないが、子孫を残せないことは良くは思っていない。
夫も気づかい何も云わない。
それだけではなく子供の頃の育ちにも難ありなのだが、夫はそれを受け入れてくれた。
それが弥生には嬉しい反面、苦しく思えることがあった。
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