月の記憶、風と大地
弥生はバスに揺られ再び自宅へ戻る。

面接とテストが終わったのもつ束の間、次の問題が待ち受けている。


正解も不明だし解答を導く手引き書もない難問だ。


夫はとぼけるだろうか。
知らないと言い張るだろうか。
それとも無視されるか。

もしくは開き直って認めるだろうか。

様々な考えやパターンが脳に浮かび上がっては、不安と対策を考える。

疲れた体と重い精神状態を引きずり、本来ならばほっとするはずの我が家が怖い。

マンション十階の最上階にある我が家だが、いつもよりとてつもなく遠い。

やがて家にたどり着いた。

弥生は夫が知らないフリをするならそれも良いかと考えていた。
自分が我慢すれば、これからも夫婦ではいられるはずだと。

鍵を開け玄関に入ると夫のスニーカーだけが無造作に脱いであった。

さすがに今日はいないのかと、ほっとする。

ちなみに夫には姉や妹はいない。
なので仮にひとり息子であり若い親族が訪ねてくる、という状況はないのだ。

弥生はパンプスをそっと脱ぐと玄関に上がる。

リビングにはいない。

浴室にもいないようだ。

残りは寝室だが……。

僅かにドアが開いている。

そこから弥生は、そっと部屋をのぞく。




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