月の記憶、風と大地
レジ時間を終えた弥生は、休憩室にある備品棚からセロテープとクリップを持って来るように静に頼まれ、休憩室のドアをノックしてから室内に入る。


「失礼します。ごめんなさい、休憩中に」
「いいえ。備品類はここに置いてありますからね。気にしないで」


やっと休憩に入った津田が、商業施設内のスーパーで購入した焼き芋と、ブラックコーヒーを休憩室で口に運んでいた。

テーブルには客からの差し入れというお茶菓子の箱が置いてある。

白衣は脱いで椅子の背もたれに掛けてありTシャツ姿だった。
男らしい筋肉が見えている。


「津田店長、プレゼントがすごいですね」


弥生が休憩室に置いてあるお茶菓子を見つめ、事務用の棚からセロハンテープを取り出す。



「好意は嬉しいです。お客さまと仲良くなっても、やっぱり仕事上の付き合いですからね。それ以上はありませんよ」



津田がコーヒーの缶に口をつける。



「おれ、好きな人には好かれないんです」



津田が苦笑いをする。



「結局、奥さんだった人には逃げられてしまいましたから」



弥生は返答に困った。



「でも穣くんがいらっしゃるではありませんか。羨ましいです」



弥生にはどんなに望んでも叶わない夢だ。
自分にも子供がいたら、状況は違ったのかと勘繰ってしまう。



「そうですね。穣は大切です」

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