月の記憶、風と大地
弥生が再びため息をつく。
その時だ。
人影が公園内に入って来るのが見えた。
背の高い男性と子供だ。
手を繋いでいる。
暗がりで二人とも年齢は不明だが、子供は背丈からして四、五才くらいだろうか。
「パパ、ブランコしたい!」
子供が小さな手でブランコを指差している。
ちなみにブランコは二台あり、一台は弥生が座っている。
男は子供と空いているブランコに近づき、男は隣の弥生に軽く挨拶をした。
「すみません。騒々しくて」
「いえ、おかまいなく」
弥生は返事をしたがブランコは本来、遊ぶものだ。
スマホの時計を確認すると現在の時間は、夜十時過ぎ。
子供を遊ばせるには遅い時間だが、今はそういうものなのだろうか?
様々な事情はあるのだろうが、子供もおらず専業主婦で長い時間を過ごしてきた弥生には、この親子らしい男と子供がなぜ公園に来たのか疑問だった。
「もうブランコあきた~!」
しばらくブランコで遊んでいたが今度はブランコがあきたとぐずり始めた。
男は呆れたように、しかし楽しそうに子供を抱き上げる。
「眠くなってきたな、帰るか」
男は子供を腕に抱えると、弥生に軽く会釈して公園を出ていく。
とても感じの良い男性だと弥生は微笑する。
親子を見送った弥生はとある求人に目が止まる。
これにしよう。
ダメだったらまた探せばいい。
弥生はブランコから立ち上がると、自宅マンションに向けて帰り始めた。
夫からの着信設定を音にする。
すると弥生のスマホの着信音か途端に鳴った。