月の記憶、風と大地
呑み会


穣は今日は幼稚園のお泊まり会だ。

津田、後台、静、弥生の四人は居酒屋に集まっていた。
この日は後台と弥生は休日、津田は遅番、静は早番だった。



「ずいぶんと遅くなってしまいましたが、弥生さん。ドラッグストア『ナーキア』へようこそ」



四人の都合がようやくついて、弥生の歓迎会が行われたのである。



「後台さん、スーツですね。何か用があったんですか」



弥生を含め三人は、それぞれラフな私服だった。
斜め向かい側の後台に訊ねる。


「気合いを入れて参加しました」


テーブルを挟んだ静を見つめるが、静は無表情に後台を見返している。
つまらない、面白くない、スベっていると無言で云っていた。



「……嘘です。実家の野暮用です。無事に終わりました」



後台は悲しげにお手拭きで手を拭き、ノンアルコールビールを注文する。
津田も同様だ。



「子供は急に、迎えに行かないといけない場合があるからな。備えないと」



後台は笑顔に見える顔のまま頷いたが、どこか申し訳なさそうだ。

一方で静は、注文したビールを遠慮なく呑んでいる。


「そうですか。ああ、仕事あがりのビールは堪んないです」


静は遠慮なしにジョッキを傾けている。

早々にジョッキを空にしてテーブルに置き、さらにおかわりを注文する。
そんな静に釣られて弥生もつい、生ビールを飲んでしまった。



「ところで弥生さん、ずっと気になっていたんですが」


静が枝豆に手を伸ばし、口へ運ぶ。



「どうして専業主婦、やめたんですか?やっぱり、老後不安ですか」
「それは……」



弥生は専業主婦に負い目を感じていたことを話した。



「考えすぎ。あたしは専業主婦は、素敵だと思いますよ。結婚して家事に専念なんて、最高じゃないですか」



正直、弥生は驚いた。
静は働く女性最前線に見えていたからだ。



「女の社会進出なんて、一部を除いて安い労働力を増やしただけですよ。この類いの煽りを受けるのは結局、女です」

< 50 / 85 >

この作品をシェア

pagetop