月の記憶、風と大地
運ばれてきたジョッキを持つ。
「メディアに流されたらダメですよ。……ひょっとして、自分は飼われてるとか思ってませんか?」
弥生はドキリとした。
その反応に静は悟ったように頷く。
「お客さんに聞いたことがあるんですよね。メイクのカウンセリングしていて、旦那の給料でどうたら~とか。まあご主人には、感謝するべきだとは思いますが」
後台がノンアルコールビールを飲みを飲みながら、話を聞いている。
「静さんは、専業主婦になりたいんですか?」
「もちろんです」
静は即答した。
「それで毎日ジム通いしたいんです。それに」
ジョッキを置いた。
「今はいいですが、年齢を重ねると、好きな仕事も辛くなると思うんですよ。あたしだけかもしれませんが」
いつもより饒舌なのはアルコールのせいだろうか。
「その旦那が浮気したら、静さんはどうするの?」
津田が箸を持ったまま頬杖をついた。
弥生は津田に顔を向ける。
「は、浮気?」
静の目元に陰が落ちる。
「男の気持ちはわかりませんが、なんでも本能で種を撒き散らしたいとか、なんとか。訊いたことはありますが」
静は弥生と津田を交互に見てから、ため息をつく。
感の良い静は何かに気づいたようだ。
「なるほど、そういう理由もあったワケですか。深くは訊ねません」
ビールを煽りテーブルに置いた。
「でもまあ。好きな相手がいることは、羨ましいですよ。あたしもいつか、結婚したいなあ」