月の記憶、風と大地


昼下がり。
弥生が休憩室にある事務用品を取りに行くと、後台が休憩をとっていた。

すでに昼食は済ませたようだが、何やら神妙な表情でテレビ画面を観ている。

テレビではワイドショーが流れており、それはある個人医院の水増し不正請求のスクープを取り上げていたのだが。

後台が顎をつまむ。


「ちょっとした知り合いのお宅なんですが……」


美羽の両親の経営する医院が週刊誌にすっぱ抜かれたが、テレビでも取り扱う事件となっていた。

勤務時間の水増し請求であり、その金額は分かっている時点で八千万円であるという。


その記事内容をワイドショーの中でパネルやフリップを使い、記者が説明している。

今の時点で弥生は、太田美羽の両親だとは知らない。


「お金って、いくらあっても満足しないものですね」


後台は頷く。


「身を滅ぼす原因になります」


後台はそれ以上は答えなかった。
弥生も特に気にせず、棚から青系の不織布を何本か取り出すと売り場へ戻っていく。

静と共に化粧品売り場や日焼け止めの陳列棚を、夏らしく装飾するためである。


あの歓迎会以来、弥生は津田と会話していない。


避けているわけではなくてシフト時間が合わなかったり、津田が会議や出張で顔を合わせる機会がないだけなのだが、お互いに何となく気まずい。

どうしてあんな事を云ってしまったのか。

太田美羽とファミレスで会話した時といい、自分が見当違いのようか気がしてならない。



















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