月の記憶、風と大地
事態が動いたのは、その時である。
繊維会社『メーリヤ』の経理部で一人の病欠者が出た。
担当者は四十代の真面目な男で、周囲の人間への気遣いを忘れず温厚で道徳的な人間であった為、信頼も厚かった。
そんな彼が倒れ、普段から世話になっているお礼にと、丁度、手の空いた部署の若者が役に立てる事はないかと、その担当の資料や書類を見ていたのだが。
彼は直ぐに違和感を感じ取り、表情が変わった。
「これは」
彼は慌てて上司に報告し、経理部は騒ぎとなった。