月の記憶、風と大地
試験
弥生の登録販売者試験当日。
地元の国立大学を試験会場にして午前と昼食時間を挟み午後に渡り、筆記テストを行った。
試験を受ける年齢層はバラバラで幅広い。
弥生と同じ位の男女共に見かけたし、年上や年下も多かった。
みんな合格できますように、と祈りながら弥生は試験開始を待つ。
自宅で過去の試験問題を解き何とか合格点は取れたが、いざ本番を迎えると緊張からか、覚えた事を忘れてしまったり。
それでも何とか解答欄がずれていないか確め、問題用紙には帰ってから採点出来るように解答を書き込みながら、最後まで解答できた。
試験終了後、問題の解答がインターネットで掲示されるので、店舗で採点することになっている。
最後の試験が終わりに近づき、弥生が試験に集中している頃。
和人の勤務する繊維会社である。
「野上原部長。経理部から話があるそうです」
連絡を受けた和人は、経理部へと赴いた。
補助金の申請書類に不備があるのかと思っていたのだが。
「……」
経理部を後にした和人は険しい表情で開発部へ向かう。
そのまま鴻江のデスクへ向かう。
「野上原部長」
「鴻江課長。どういうことだ、これは」
書類をデスクに叩きつける。
それは美羽が見た請求書の書類だ。
鴻江は椅子にもたれる。
「おれが取り付けた契約書だな」
「そうだ」
和人の静かな怒声が室内に鋭く響く。
しかし鴻江には、まるで効果はないように見えた。
「何が悪い?」
悪びれもせずに答えた。
「おれが取り付けた契約だ。その金を使って何が悪い」
「おまえの金じゃない。会社の金だ」
和人の口調は切れ味を増している。
しかし鴻江は悪びれずに鼻を鳴らす。
「あんただって、似たようなもんだろうが」
和人の言葉に鴻江は笑みを浮かべる。
「おれより、自分の心配をした方がいいんじゃないのか。野上原部長」
鴻江はスーツの内ポケットから封筒を取り出す。
封筒を和人にちらつかせた。
「これが証拠写真というわけだ。こんな物が出回ったら、あんたも社には、いられんだろうよ」
和人は表情を変えなかった。
「なんの事だ」
鴻江は和人を嘲笑う。
「とぼけても無駄だ。証拠は掴んでるんた。あんたとの関係が公になる前に、太田は辞めたんだろう。どうでもいいことだがな。まだ間に合う。おれと取り引き……」
和人は整った瞳に鋭い眼光を含ませる。
鴻江は怯んだ。
「太田を脅したというのか」
和人は太田美羽とは連絡は取り合っていない。
美羽が退職したことは知っていたが、自分が関知するところではないと思っていたからだ。
「あんたの不倫が赦されて、おれの事が赦されないのは納得がいかない。あんたも裁かれろ」
鴻江は歪んだ笑みを浮かべる。
「健気ですよ、太田もあんたも。気のないフリをしているのも、辛いでしょうに」
和人は美羽とは連絡を取り合っていない。