月の記憶、風と大地
津田が弥生が店を去ったが、静と後台は店で働いている。
後台が店長業務を引き継ぎ、静が補佐にあたることとなった。
「弥生さんと津田さん、本当にそんな風になるとは、思わなかったです」
今日も一日の業務を終えた閉店後である。
後台は頷いたものの、あの呑みに誘った時には津田は、そうするつもりだったのだろう、と考えている。
店のシャッターを下ろし鍵をかけた帰り際、帰ろうとした後台が静を呼び止めた。
「静さん、好きです」
いきなりの告白だ。
静は振り返り腕を組む。
いつものように拒否はしなかった。
「ありがとう」
「結婚を前提にお付き合いしてくれませんか」
「結婚する気がない人とは、付き合いません」
「結婚してください。お願いします」
「そうですね。考えておきます」
静は小さな笑みを浮かべる。
「後台さん、やればできるじゃないですか」
後台の手からバッグが落ちる。
静の笑顔を見た後台は、静を抱き締めていた。