月の記憶、風と大地
何とかテストを終え終了時間になるとドアがノックされ、ひとりの女性が入ってきた。
レジにいた女性だ。
『ビューティーアドバイザー 静 京香(しず きょうか)』と名札が見えた。
無表情に弥生を見る。
「お疲れさま。今日は終わりです。忘れ物に気をつけてお帰りください」
「ありがとうございました」
何とかテストを終えた弥生は休憩室を出た。
事務所を覗くと書類を持った津田が何かを説明し、横に男が立ってそれを訊いている。
「今日はありがとうございました。帰ります」
弥生が声をかけると津田は気づいたように弥生の前に歩みよる。
「お疲れさま。結果は後日、連絡します」
津田が云った。
「お疲れさまです」
津田の隣の男が笑いかける。
白い肌に茶系の髪。
全体的に細く顔立ちも整った男だった。
柳の葉のような切れ長の瞳は細く、常に笑顔のように見える。
身長は津田より背が高い。
一八五センチはありそうだ。
年齢は三十代後半くらい。
名札には『薬剤師 後台 篤(ごだい あつし)』と書いてある。
どことなく上品な雰囲気が漂う男だった。
帰り間際にパソコンが置いてある事務室に目を向けると、あの男の子が子供向けの小さな椅子に座り、子供用の机に向かって塗り絵に集中していた。
弥生に気づくと小さな手がバイバイ、と動いている。
その姿に何となく癒され小さく笑った。
弥生も手を振り替えし店の外に出ると、さあこれからもうひとつ、と気合いを入れる。