その瞳に私を写して
「次の恋に踏み出さなきゃ!」

「分かってるってば。」

麻奈だって、分かってる。


3ヶ月も経つのに、未だに写真すら捨てれずにいる。

自分が、ものすごく情けない。


「写真を捨てたからって、思い出まで捨てたっていう事にはならないでしょ。」

勇平は、優しい笑顔で続けた。

「時間は、つらい思い出も楽しい思い出に変えてくれます。楽しい思い出が多くなれば、また恋をしたいって、そう思えてきますよ。麻奈さん。」


ああ、そうだ。 

自分は、写真を持っている事にこだわっていた。

写真を捨ててしまえば、一緒に思い出まで、捨ててしまわなければならないと、麻奈は思ってしまっていた。

忘れるっていうのは、楽しかった思い出、愛した記憶さえ、失ってしまう事ではないのだ。


「ありがとう、勇平君。」

「……どういたしまして。」

自分でも、胸につっかえていたものが、取れたような気がした。
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