その瞳に私を写して
そんな麻奈が、仕事を始めて、1年が過ぎた。

1年もすればどんな人でも、仕事には慣れてくる。

そんな時に、麻奈は正也と、仕事をする事になった。


麻奈は正也に、 ”才能ない”とか言われた事を、しつこいくらいに覚えていて、一緒に仕事するのは正直”勘弁”だった。

当たり障りのない仕事の打ち合わせをし、それ以上は関わらないようにしていた。

そんな時。

何度目かの打ち合わせの中で、麻奈は久し振りに、正也に話しかけられた。

「そういえばあんた、名前なんていうの?」

今さら?とつっこみたくて仕方なかったが、それ以外話す事もなかったので、仕方ないという態度で答えた。

「佐伯(サエキ)です。」

「下の名前は?」

正也は、馴れ馴れしくタメ口で、聞いてくる。

「苗字で呼んで下さい。」

「下の名前を、教えろって言ってるだろう。」

「苗字でって、言ってるじゃないですか。」

それからしばらくの無言の後、正也は財布から、1枚の紙を取り出した。
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