その瞳に私を写して
ある日の、夜。

「麻奈さん、今度付き合ってほしい所があるんだ。」

ふいに勇平が、麻奈に言ってきた。


「ああ……どこ?」

「その日の、楽しみにしてて。」

勇平は、いつもの笑顔だ。

正也の写真を見た以来、麻奈は勇平を見つめる事ができない。


自分の気持ちは、一体どこへあるのか。

本当に勇平の事が好きなのか。

実は勇平に、正也を重ね合わせているだけなんじゃないか。

麻奈は、そんな気がしてならなかった。


「どうしちゃたの?麻奈さん。」

そう言って勇平は、麻奈の隣に座った。

「何が?」

「さっきから、浮かない顔してる。」

余程悩んでいる事が、顔に出たのか。

麻奈は、無理に笑って見せた。


「今日の夕食、外で食べようか。」

見かねた勇平が、麻奈を誘った。

「うん、そうだね……今日は外に行こうか。」

「その顔、その顔。」


勇平はよく笑う。

その笑顔に、麻奈は何度も、救われているような気がした。
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