その瞳に私を写して
「お疲れ様。」

麻奈がグラスを持つと、勇平もグラスを持つ。

「お疲れ様、麻奈さん。」

乾杯の音が響くと、二人で微笑んだ。


正也は、麻奈と同じ歳だった。

麻奈は、正也と付き合っている時、いつも片思いしているような気がしていた。

どちらが多く、愛しているかなんて、今となっては関係ないと思えるけれど、その当時は麻奈も正也も若かった。


そんな何でもない事を、悩みの種にしていたのかも。

別れた時も、正也は麻奈からの「別れたくない」の言葉を待っていたんだろうか。

そして麻奈は、正也からの「ごめん、もう一度やり直そう」の言葉を待っていたのだ。


そんな考え事している麻奈に、勇平は話しかけた。

「麻奈さん!」

「えっ?」

「また、考え事?」

「ああ、ごめん。」

麻奈はワイングラスを、テーブルに置いた。

「最近、考え事ばっか!」

「ほんとだね。考え事ばかり。」

ワインを一口飲んだ後、勇平は麻奈を下から覗きこんだ。

「俺の事、考えてんの?」
< 46 / 81 >

この作品をシェア

pagetop