その瞳に私を写して
「うそ。」

その瞬間勇平はまた、麻奈を捕まえようとするけど、それが失敗に終わって、二人で追いかけっこが始まった。

「ああ~!せっかく捕まえたのに~!」

先に疲れて止まったのは、年下のはずの勇平だった。


リビングに大の字になって、寝転ぶ勇平の脇に、麻奈は腰を下した。

「でも、待てよ~。麻奈さんは俺の事、好きだって言ったよな。」

「いつ~?」

「さっき!」

「言ったっけ?」

麻奈は、知らない振りをする。


「あ~、だったら好きって言って!」

「もう一回は、言わない。」

「もう一回って事は、さっき言ってるじゃん。」

二人で初めて、顔を合わせて笑い合った。


起き上がった勇平の頬に、麻奈はキスをした。

誰かの代わりでもいいから、自分の側にいたいと、言ってくれた年下の男の子。

その気持ちに答えたいと思ったから、時間はかかるけれど、正也の事は忘れようと思った、麻奈だった。
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