その瞳に私を写して
「泣いてないもん!」

正也はいつもそうだ。

本気で言ってるのか、冗談で言ってるのか、よく分からない。


「俺は今日、泣き顔を見る為に、来たわけじゃないんだよね~」

「じゃあ、何しに来たの?正也。」

「……さあ?」

正也は、首を傾げる。

「元気にしてんのかなぁ~って、気になったんじゃないの?」

そして自問する正也。

「そうなんだ。」

「分からないけど。」

「何それ。」

本当にとんちんかんな事言って、でも麻奈はただただ懐かしくて、笑顔だったかもしれない。


「麻奈は、仕事うまくいってるのか?」

「おかげさまで。正也は?」

「うまくいってますよ~。お宅の編集長から、お声かけてもらったし。」

「編集長が?」

なぜ、うちの編集長が、正也を?

麻奈は、頭が混乱してきた。


「やっぱり、仕事ができるやつっていうのは、天才の事を知ってるんだな。」

正也はそう言って、たばこを一本吸おうとした。
< 54 / 81 >

この作品をシェア

pagetop