その瞳に私を写して
そう言ってキッチンへ向かった勇平に、麻奈は言ってはいけない事を、言ってしまった。

「勇平君は、二人の気持ちが大切だって、言ったよね。」

「ああ、そうだよ。」

「いつ私が、勇平君の事好きだって言った?」

その瞬間勇平は、持っていたワインを、テーブルに叩くように置いた。


「いい加減にしたら?」

「だってそうじゃない?お金がないから、部屋を貸してただけじゃない。」

「……麻奈さんは、俺がいるの、迷惑なんだ。」

「そうよ。」

「じゃあ、もう俺、いない方がいいんだ。」

「そうよ。」

「分かった。」


そう言うと勇平は、自分の部屋へ行き、荷物をまとめ始めた。

勇平がいなくなる。

それは分かるのに、麻奈は勇平を、引き留める事ができない。

そうこうしているうちに、勇平は荷物を持って、家のドアを開けた。


「勇平く……」

そう言いかけて、麻奈の目に飛び込んできた勇平の顔は、とても悲しそうだった。
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