その瞳に私を写して
「勇平ほど麻奈の事、大切に思ってる奴はいないと思うんだ。」

意外な言葉に、麻奈は絶句した。

「あいつが、俺に言った言葉 教えてやろうか。」


それは正也が契約している事務所に、勇平がアルバイトとして働いていた時だった。

勇平はまだまだ下っ端で、仕事でカメラを使わせてもらっていなくて、毎日毎日、雑用に明け暮れている。

そんな感じだった。


そんな勇平でも、休日は写真を撮り、事務所のオーナーに、アドバイスをもらっている。

写真に、真っすぐな奴だった。

それを見た正也は仕事中に、からかい半分で、自分のカメラを勇平に渡した。

最初は戸惑っていたようだが、「試しに撮ってみろよ。」と言うとはにかむ笑顔で、写真を撮り始めた。


写真を撮るのが仕方ないって、全身で言っているような気がした。

その姿を見た時、こいつとはずっと、同じ業界で仕事をするなと感じた。

それからだった。
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