世界中に続く空
あたし写真部なの、と言った女は証拠品を提示するかのように、カーディガンの上着から小さなデジタル・カメラを出して二人に見せた。

「尊敬しているジャーナリストがいるの。あたしが写真を始めたのも、その人の影響。スタジオカメラマンだった彼が、戦場に出て写真を撮り始めたのは何年も前。衝撃を植えつけられた。彼は、戦場で生きる人々、死んでしまった人々の写真を撮っては、記事にしていた。今もそう。あたしは、彼に続くような戦場ジャーナリストになる」
 
涼も一樹も、何も言わなかった。

何も言えなかった。

ただ想像していた。寒い中、毛布に身を包み逃げ出したい恐怖と、動いたら己がそこに居ると知られてしまう怯えと戦いながら、歯を食いしばってじっと夜が明けるのを待つ人々のことを。

頭上に広がる大きな雲は、もしかしたら人が死ぬところを見たことがあるのかもしれないのだ。
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