お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。
アレンは、いつもこうだ。
さらっ、と人の心を震わせるセリフを、前触れもなく飛ばしてくる。
今までだったら冗談として笑って受け流せていた言葉も、アレンを意識し始めてからは違った響きに聞こえてしまう。
何でもないように告げられたセリフは、私の気持ちを自覚するには十分だった。
「…言っておくけど、私もアレン以上に大切なものはないわ。」
「え?」
「例え好きな人ができても、アレン以上に大切に想える気がしないもん。」
ぽろり、と口に出た言葉は、完全に無意識だった。
すたすたと歩き続ける私は、さらに、ぽつ、ぽつ、と本音が溢れる。
「本当は、最近寂しかったのよ?メルさんから作戦を聞くまでは、私に何も教えてくれなかったし。」
「…。」
「今日だって、やっと一緒にいれると思ってたのに、所用とか言ってどこかに行っちゃうし。…私の専属執事はアレンだけなんだから、ちょっとくらい私に構ってくれる時間を作ってくれても…」
「ストップ。ちょっと待った。」
私の言葉の続きを制止する彼。
隣を見上げてきょとん、とする私に、アレンは、はぁ、と眉間に手を当てている。
「人の気も知らないで…、それ以上はやめて下さい。いくら長い付き合いで深い意味はないと知っていても、期待しそうになります。」
「?期待?」
「…ですから。私が特別に想われているんじゃないかと自惚れてしまうということです。」