お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。
(私を殺す気か、あんたは。)
キュン、とさせるだけでは飽き足らず、呼吸をする余裕さえ奪う口説き文句を平気で口にする。
「えっと、それは、専属執事だから、ってこと…?」
「はい?」
「だから、それは恋愛の好きだとかじゃなくて、お嬢様としてって意味なの?」
「全部言葉にして欲しいんですか?今までも、散々言ってきたのに。」
眉を寄せた彼は、はぁ、と小さくため息をつく。
ずるい。
自分は言わないくせに、彼の答えに期待している。言ってほしいって、思っている。
その時、コツ…、と私に体を向けた彼。
アレンは、ふわり、と笑って静かに告げた。
「一人の女性として、お慕いしていますよ。」
「!」
「誰よりも、何よりも大切です。」
“ずっと側にお仕えしていた、俺にとって何にも代え難い一番大事な彼女”
メルさんは、愛してしまったお嬢様のことを、そう言っていた。
アレンにとって、私が同じ存在なら。
かぁぁっ!
直球の言葉に、つい、体が熱くなる。
すると、頰を染めた私に驚いた様子のアレンは、少し戸惑ったように口を開いた。
「え?お嬢様、もしかして照れてます?」
「ちょ、ちょっと、こっち見ないで…!まさか、からかっただけとか言うんじゃないでしょうね!」
「言いませんよ…!…でも、いつものお嬢様なら、ここは“冗談キツいわ”って笑うところじゃないですか。」
思わず顔を隠す私を、ひょい、と覗き込もうとするアレン。
とっさに駆け出して逃げようとするが、彼が私を見逃すはずがない。
流れるように、ガッ!と背中から腰を抱かれた私は、息が止まる。
「待った。どこへ行くんです。」
「っ!は、離して…!」
「嫌です。なんで急にそんなことを聞くんです?今まで一度も、私のことを意識すらしてなかったくせに。」