お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。
ーーコツ。
やがて、一人で歩き出す私。
アレンに予想外の告白をしてしまった事件以上に、私の頭の中を占めていたのは、かつてのメルさんとの会話だった。
“…執事がやってはならないこと。それはね、主従の一線を越えることさ。”
私が気持ちを伝えたら、きっとアレンを困らせる。
最悪の場合、メルさんのように急にいなくなってしまうかもしれない。
私は主で、アレンは執事。
その関係は、今までもこれからもずっと続くと思っていた。
もしも、私の一方的な想いのせいでアレンが執事を辞めてしまったら、きっと、立ち直れない。失恋の傷を負うと共にアレンまで失ったら、私に残るものなんてないのだから。
(こんなこと、言うつもりじゃなかったのに…)
ーーと。
悶々と頭を抱えながら路地を曲がった
その時だった。
『見つけたぞ、あの子どもじゃないか?』
『あぁ。写真の通り、“サーシャ”に間違いない。』
(え…?)
ザッ!と、突然目の前に現れる二人組の男。
明らかに怪しい雰囲気に、頭の中で危険信号が鳴った。
しかし、声を出して逃げる前に腕を掴まれ、シューッ!とスプレーのようなものが目の前に広がる。
(…甘い、匂い…?…!)
意識が遠のく瞬間、近くに止められていた馬車から見えたのは“ブロンドの縦ロール”だ。
『おい、嬢ちゃん。このおチビちゃんを誘拐すれば、金をくれるんだよな?』
「えぇ。ラインバッハの郊外でも、国外でも。ヴィクトル様と二度と会えない場所に連れていってちょうだい。」
男に答えたその鈴のような声には、聞き覚えがある。
(モニカ……?)
燕尾服のアレンの姿が頭をよぎった瞬間。
私の意識は、プツリと途切れたのだった。
第3章*終