お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。
ガチャ。
その時。
背後から玄関の扉が開く音が聞こえた。
お付きのお嬢様の帰還に、どきり、と胸が高鳴ったアレンだったが、期待に満ちた目で振り返った先にいたのは、予想外のシルエット。
「ただいま戻りました〜!」
ニコニコ笑顔で現れたのは、ルコットである。
そして、その後ろから、専属お嬢様のサーシャと、二人を見送りに付き添って来たらしいヴィクトルも続いた。
「玄関で立ち話なんて、どうしたの?」
「あれ?ニナさんはいないのかい?」
どうやらサーシャとルコットは、ヴィクトルが手配した馬車で帰って来たらしい。
普段なら真っ先に出迎えに来る姉の不在に、首を傾げている。
「お嬢様は、散歩がしたいと言って私と別れたんです。城からの帰り道を歩いていませんでしたか?」
「うーん、いなかったと思うわ。見かけたら声をかけていたはずだもの。」
(…!)
月を隠す叢雲のような、得体の知れない違和感を覚えた。
城からの帰り道は、市場を通り過ぎるとほぼ平原。花咲く野原や川辺を歩いたところで、歩いている人が隠れる場所なんて無い。
さらに、遠出したところで名所があるわけでもないため、帰り道は絞られるはずだ。